地 形
雪の安定性
雪崩の危険


参考文献

北海道アウトドア協会広報誌「レラ」

北海道の雪崩事故

北海道の雪崩事故(PDF)


文:新谷 暁生(しんや あきお)
ニセコ雪崩調査所所長、シーカヤックガイド、登山家

雪崩情報ページ
雪崩災害防止対策要領(山形労働局)


『雪崩危険の3要素』

アバランチ・ハザード・トライアングル

 『雪崩の危険の3要素』は、地形、積雪の安定性、そして人為的なものです。

行動判断は、『雪崩の危険の3要素』をそれぞれ判断してから行うこととなります。


地形の構造によって、雪崩が発生しやすい場所がある。


1.斜面の傾斜度による判断(よく雪崩れるのは30〜45度)
・ 雪崩が停止した先端から発生地点までの仰角(見通したときの角度)が、表層雪崩で18度以上
 全層雪崩で24度以上となる範囲であるが、スラッシュ雪崩等はこれ以下の角度でも到達する場合
 
がある。

      


2.地形図による判断
・ 障害物のない広大な斜面
・ 吹き溜まり、雪庇(風下に突き出したひさし状の積雪ある斜面

3.植生による判断
・ 樹林帯の中で木の生えていない斜面
・ 

4.雪崩発生地点地図による判断

・ 過去に雪崩が発生したことのある場所
5.その他
・ 専門機関等において雪崩発生の恐れがあると判断された場所




雪の安定性

 雪の状態によって、安定している場合と不安定になって、雪崩が発生しやすい時がある。


1.降雪

       ・降雪(吹き溜まりを含む)があった場合


2.雨
 ・降雪中やその直後

3.気温

・急激な気温の上昇または低下があった場合

4.その他

 ・斜面上の積雪に亀裂やしわが認められたり、斜面上方にブロック状の積雪が存在する場合



人為的な行動

雪崩の90%以上は、事故者(パーティ)が引き金になって発生したものといわれている。

1.狭い範囲の荷重の集中

      ・ 緩斜面と急斜面の変わり目のところには、積雪の圧力が集中的にかかっています。このようなところに、何人もが
        集中的に行動した場合。
        


2.斜面のトラバース

      ・ 斜面の積雪は、下に動こいていこうとする力と雪の結合力でバランスがとれた状態。そこを横切ろうとすることは、
        そこに包丁を入れるような行為です。


3.雪庇の踏み抜き

      ・ 雪庇を踏み浮いた事による雪崩の誘発。

4.その他
・ 滑落らブロック状の雪の崩壊による雪崩の誘発。








『雪崩の分類』

表1 雪崩の分類(日本雪氷学会. 1997

雪崩分類の要素

区分名

定        義

雪崩発生の形

点発生

一点からくさび状に動き出す。一般に小規模。

面発生

かなり広い面積にわたりいっせいに動き出す。一般に大規模

雪崩層(始動積雪)の乾湿

乾雪

発生域の雪崩層(始動積雪)が水気を含まない。

湿雪

発生域の雪崩層(始動積雪)が水気を含む。

雪崩層(始動積雪)すべり面の位置

表層

すべり面が積雪内部。

全層

すべり面が地面

 

 

 

雪崩発生の形

 

点  発  生

面  発  生

雪崩層(始動積雪)の乾湿

乾雪

点発生乾雪

表層雪崩

点発生乾雪

全層雪崩

面発生乾雪

表層雪崩

面発生乾雪

全層雪崩

湿雪

点発生湿雪

表層雪崩

点発生湿雪

全層雪崩

面発生湿雪

表層雪崩

面発生湿雪

全層雪崩

 

表層

(積雪の内部)

全層

   

表層

(積雪の内部)

全層

  

雪崩層(始動積雪)すべり面の位置

その他の雪崩現象

(1)スラッシュ雪崩(大量の水を含んだ雪が流動する雪崩)
(2)氷河雪崩・氷雪崩
(3)ブロック雪崩
(雪庇・雪渓などの雪塊の崩落)
(4)法面雪崩
(鉄道や道路などで角度を一定にして切り取った人工斜面の雪崩)
(5)屋根雪崩

*同様の現象で大量の水を含んだ雪が主に渓流内を流下するものは「雪泥流」という。






弱層テスト


 雪質は、気象条件により様々に変化します。気温が低いと結晶の小さい乾いた雪ですが、気温が高くなると粒の大きい湿った雪になります。その境目が、弱層となります。雪崩(特に表層雪崩)は、この弱層を境にして、その上側の雪が滑り落ちることによって発生します。この雪崩を誘発する弱層を発見するのが弱層テストです。


ハンドテス

1) 斜面の雪面に手で直径30cm程度の円を描き、両手で雪をかき出しながら高さ20〜30cmの円柱を掘り出す。
  2)
 円柱の上部を両手で抱えるようにして手前に引っ張る。
  3)
 1)2)の作業を繰り返し、抱える位置を順次下にずらしながら引っ張っていく。最終的には深さ70cmくらいまで観察する。
  4)
 軽く引っ張るだけで円盤がはがれたら雪崩誘発の危険大。
  5)
 薄い円盤が何枚もはがれても雪崩誘発の危険あり。

シャベルテスト
 掘り出した雪の斜面に切込みを入れ角柱にします。
その角柱の上から徐々に下へ、シャベルで横向きの力を加えていきます。
だるま落としのように雪の層が、横に簡単にずれるようであれば
その斜面は、雪崩の危険性が非常に高いということがいえます。


シャベルコンプレッションテスト


ルッチブロックテスト

その他








『雪のメカニズム』

 空から降ってくる場合は「降雪」と呼びます。地面に積もった場合は「積雪」と呼びます。そして「雪」と「霜」は明確に区別されます。さらに、「積雪」は雪粒子と空気の混合物で通気性があるのに対して、「氷」は通気性のないものとして区別されます。ここで出てきた「降雪」「積雪」「霜」「氷」は、雪崩の学習体験の中で何度も使われます。

雪の変態(球形化 ⇒ 再結晶化 ⇒ 融解凍結)

 大気中の水蒸気が凝結して形成された雪結晶は地面に積もって積雪となる。積雪中の雪結晶は、温度勾配や融解の影響を受けて時間とともに変質する。
これを雪の変態(Snow metamorphism)と呼ぶ。

○ 球形化(弱い温度勾配  10cmに1℃以内  表面積を減らす)により、雪の結合は強くなる
新雪(弱層) ⇒ こしまり雪 ⇒ しまり雪
○ 再結晶化(強い温度勾配  10cmに1℃以上 表面積を増やす)により、雪の結合は弱くなる。
ざらめ雪 ⇒ こしもざらめ雪(弱層) ⇒ しまざらめ雪(弱層)

        融解凍結をくりかえすことで、再結晶化が進む。

○ 融解凍結







『雪崩にあわないために』


 『雪崩危険の3要素』をもとに、危険箇所の通過の可否を検討する。

危険地帯の通過方法 

・ ひとりひとり、間隔をあけて通過する。

・ 通過中のひとりを、安全地帯にいるメンバー(全員)で、必ず見守る。






『もしもの場合の装備(3種の神器)』

 雪崩対策の装備で、3種の神器と呼ばれているものは、「アバランチビーコン」・「ショベル」「ブローブ」である。その他にも、呼吸の確保のための「アバラング」
雪崩ひもがあります。

 自己紹介で、登山において、最も危険な状態は、「何が危険なのかを認識できていない状態」です。と書いていますが、雪崩に関しては、ガイド講習を受ける間では、私自身も同様でした。

 積雪期の登山者の多くは、現在でも3種の神器を準備していない方が、ほとんどの中、パウダーを滑る「スキヤー」や「スノーボーダー」は、標準装備になりつつあります。
この『3種の神器』を持っていれば安全だということは全くありませんが、少なくとも、もしもの場合の救出では、これらの装備があるとなしとでは、大きな違いが出てきます。
 
 もちろん、これらの装備は、団体装備ではなく、個人装備です。パーティー全員が標準装備をしなければなりません。3つの装備をすべて揃えるとかなりの出費となりますが、十分な備えをして、入山することは、登山者の義務といえると思います。

  

                             アバランチビーコン      ブローブ          ショベル





『雪崩レスキュー』

仲間が雪崩に巻き込まれてしまった。
救出できるのは、あなたしかいない。
救援要請は、単なる遺体捜索となってしまう。
タイムリミットは、埋没から救出まで15分


 雪崩による犠牲者の25%は、地面・樹木・岩などへの激突によるもので、さらに25%の方が、30分後に窒息死しています。

 スイスでは1992年から98年に雪崩に遭った人の数はスキーヤー、スノーボ−ダー、家屋内、車内の人合わせて638名、そのうち15分以内に救出された人の生存率は92%、助からなかつた8%の全員が既に致命的な障害を受けていたとのことです。
 換言すれば、雪崩に埋まっても15分以内に掘り出されたら全員助かる、という話でした。
 ところが15分を過ぎたら急激に生存率は低下し、35分以内には30%に、130分になるとわずか3%しか生き残れないそうです。

 雪崩遭難者を15分以内に発見し、救出するために必要な装備が雪崩ビーコン、ゾンデ、スコップです。
ビーコンで埋没者の位置を特定するのに5分〜7分、スコップで掘り出すのに10分、
この時間内で出来るよう日頃から訓練をしておきましょう。なお1立方mの雪を掘り出すのにスコップでは約7分、
スノーボードや手では45分というデータ−もあります。

 もし雪崩に遭遇してしまったら、雪の中を泳ぐようなつもりで、必死にもがきながら浮上する努力を続ける事だ。岩や樹木などの障害物が目に入ったら、なるべくそちらの方向へ身体をずらし、つかまれる物があればしがみつこう。ただ無抵抗に流されていたのでは、デブリの深い所に埋まってしまうことになる。
 また、流されている時は大声を出して、仲間に自分の位置を知らせるようにつとめよう。最後にどうしてもダメと思ったら、呼吸空間を確保するために、鼻や口に雪が詰まらないように両手で顔を覆うことだ。
(雪崩で死なないための10の法則より)

・ 雪崩にあったとき、消失点(姿が見えなくなった地点)を確認する。

 →消失点より下方に埋まっていることが多い。遺留品の延長線上に埋まっていることが多い(ピッケルなど重いものは、埋没者より下方に流される)


雪崩発生


1.救助者の安全確保(2時災害有無の確認 ⇒ 2次的な雪崩の可能性がある場合は、レスキュー活動はするべきではない。)


2.リーダーの選定


3.状況把握
  「何人が埋没したか」 「最終目撃地点」 「遭難者は、ビーコンを持っているか」 「消失点はどこか」 「残留品はあるか」 などを発見者への確認を行う。

4.救助者の役割分担
  アバランチビーコン ブローブ  ショベル  見張  救援要請  救出後の準備 記録係(時間・写真) etc
  実際の救助者の人数によって、1人で何役もしなければならないが、リーダーは、必ず全体全体の動きを把握する必要がある。大人数の場合は、リーダーは、指示のみを行   い全体の状況把握をするべきである。

5.メンバー全員に救助方法の指示。
  ・ 捜索に必要のないものは、捜索範囲外の安全な場所に配置
  ・ 新たな雪崩の可能性があるところを確認した上で、逃げる場所も事前に確認しておく。
  ・ 
  「アバランチビーコン」を必ず受信モードに変換させる。負傷などで、救助に参加できないメンバーの「アバランチビーコン」も受信 
  モードへ切り替えさせる。

6.埋没可能性が高いところからの捜索を優先させる。(リーダーは、適宜メンバーに指示を与える。)
  
  埋没可能性が高い場所 
   ・ 遭難点と消失点の延長線上のデブリ 
   ・ デブリが厚い末端付近遭難点
   ・ 傾斜が変化する付近(デブリ堆積あり)
   ・ 屈曲部の外側(デブリ堆積あり)
   ・ 残留物の延長線上の下部、
   ・ 雪崩の障害となる樹木や岩の下流側
   ・ テントや雪洞内で、雪崩に遭遇した場合は、元の位置で埋没の可能性が高い。

  
7.救助者は、救助中も声を掛け合い、情報の共有に努めるければならない。(あと何メートルとか・残留品の発見告知など)


「アバランチビーコン」がない場合のセルフレスキュー

 スカッフ&コール

 足などを使いデブリの表面を蹴散らす(スカッフ)とデブリ表面に顔を近づけて叫ぶ(コール)とによって行われることから『スカッフ&コール』と呼ばれる。
コールは、なるべく低音の方が雪の中では聞こえる。

実施方法

・ リーダーのスカッフで、全員が同時にデブリ表面の雪を蹴散らす。
・ リーダーのコールで、全員が「名前 もしくは オーイ」とコールする。
・ しばらく静かにして、遭難者からの反応を待つ。

  繰り返し

 注)遭難者からの反応を待つ捜索方法なので、遭難者が意識がない場合は役に立たないが、2mほど埋まっていても、遭難者がコールに答えられる状況であれば、
   発見は可能。埋没可能性が高いところからの捜索を優先させることが重要。

  注意事項

・ 残留物は、必ずいったん積雪から引き上げるが、必ず元に戻す。
・ 発見した場合は、ブローブは引き抜かない。
・ 埋没者の掘り出しは、口の周辺から、呼吸の確保を優先する。その後、すぐに保温できない場合は、保温できる体制(ツェルト・スノーマウントなど)
  ができるまで、体は掘り出さないほうが良い場合がある。掘り出すことで、風にさらし体温を奪うことにつながる。







『救出後の処置(低体温症状の処置)』


 雪崩がから救出されたものは、低体温症(ハイポサーミア) となっているので、体温の保持を行う。

1. 救出後にまず呼吸の確保。
2. 保温できる体制ができていない場合は、全身を雪から掘り出すことを行わない。
3. 下着等がぬれている場合は、乾いたものと着替えさせる。
4. 保温体制ができた後に、全身を掘り出し、加温を行う。
5. 『加温ショック』の可能性を考慮して、体の中心部(首、わきの下、そうけい部)からの保温に努める。

低体温症と加温ショックについての解説