第22回全国雪崩講習会  日本勤労者山岳連盟 JWAF

 平成20年2月9日(土)〜11日(月)の2泊3日の日程で、中央アルプス(千畳敷カール)で開催された日本勤労者山岳連盟 JWAF第22回全国雪崩講習会のレスキュー専科に参加してきました。

 研修前に、池山尾根から空木岳に登り、宝剣岳と縦走して畳敷カールまでの予定で、5日から4泊5日の予定で、駒ヶ根スキー場から入山しました。
中央アルプスは、季節を問わず全くはじめての山であったので、駒ヶ根駅の派出所で山の情報を聞くことにしました。


 駒ヶ根駅の派出所での状況確認

○ 日曜日に里でも積雪があり、山はかなり雪が多い。
○ 空木岳避難小屋周辺は、雪崩の可能性が高く、小屋も雪に埋まっている可能性が高い。
○ 派出所から千畳敷ホテルへ積雪状況を電話で確認していただいた。
    ⇒ 週末の雪で、千畳敷カールは雪崩れる可能性が高く、とても稜線から降りれる状況ではない。


上記の状況把握後の行動基準

 今回は、講習参加が目的であることでもし、私が遭難すれば講習会に大きな影響があるので、普段以上に慎重な行動をとる事を考える。
入山しないことも考えたが、4泊も里で過ごすとなると費用がかかってしまう。
 警察には、今後、降雪があった場合は無理をせずに池山尾根を戻る事を告げ、様子を見るつもり入山することにした。





平成20年2月5日(火)〜8日(金)

末永単独

 5日、13時のバスで駒ヶ根駅から登山口へ。
バス停の近くのホテル前で、登山準備をして14時入山。

駒ヶ根スキー場近くの登山口

池山尾根一帯は、駒ヶ根市民の憩いの森

  登山口からトレースがなく、八ケ岳と谷川岳に引き続き今回もラッセルの連続の登山に決定。なんとか、池山小屋まで行って、小屋テントで快適な夜を迎えたい。

林道付近の東屋で幕営

 16時30分、やっと林道の終点に到着。ここまで2時間30分。池山小屋までは、無理と判断して、東屋の下にテントを張る。これだけでも、雪の上にそのまま幕営するのに比べるとなんと快適なことか。


 翌朝6日7時出発。野生動物観察棟から池山山頂経由と巻道があったが、時間的に短い巻き道を行く。

地形図で確認してきたはずの池山小屋は、旧池山小屋?

 雪が深くラッセルであったので、何度も地形図を出して、少しでも早い池山小屋到着を願いながら歩く。
案内板発見。なんと『旧池山小屋』の表示?。地形図に確かにこの位置に表示があるが。登山地図を確認すると、確かに地形図と位置がずれているショック。
この標識から、約800m先に池山小屋がある。800m。夏山でれば問題ない距離だが、冬山でラッセルの登りとなるとこの距離は、大変な距離。

新しい池山小屋

 林道終点から4時間30分で池山小屋到着。この時点で、縦走は諦めました。そして、本日いくら懸命にがんばっても空木避難小屋までたどり着けないことも確信しました。
そして、こんなにきれいな避難小屋。トイレも室内にあります。当然、ここでの小屋テント決定です。

小屋の内部にテントの小屋テント

 誰もいない無人小屋であれば、小屋の中にテントを張ります。テントを張るだけで、小屋内部より、テント内は10度程気温が上がります。
小屋内部が最も冷えた時に、氷点下11℃でしたが、テント内は、氷点下1℃でした。快適です。(日本アルプスでの冬山の幕営に比較しての話ですよ。悪しからず。)

雪の結晶

 底冷えした小屋のガラスに雪の結晶。小屋の中で氷点下11℃。外は何度だったのでしょうか?

ハンドテスト

 7日も池山小屋に連泊することに決めて、午前中に十分に読んでいなかった講習会テキストに目を通して、午後から弱層テスト(ハンドテストとシャベルコンプレッションテスト)をしました。

雪の層

 雪がいくつかの層に分かれています。その分かれ目の結合の弱さが雪崩れの一つの原因となります。

雪の弱層

 上部の雪は、手首で引いただけで簡単にずれてしまいました。レベル3基本的には、行動不可能なレベルです。

  8日、今日は下山しなければなりません。せっかくですから池山山頂経由で下山します。

池山山頂

 今回、唯一登った山頂。駒ヶ根市民の憩いの森です。山に3泊もして、このピークしか登っていません。何か情けない気がしました。

池山山頂からの千畳敷カール(写真中央)

 明日から、講習会の会場となる千畳敷カールを望む。

何の糞かな?

 今度から、アニマルトラッキング、動物の糞、花を写真にとって、覚えていこうと考えていました。その手始め手として、パシーッと撮影。
なんと、すぐ先に糞の主がいるではないか。天然記念物の日本カモシカです。

発見  天然記念物

 カモシカは、天然記念物で人間に襲われた事がないのかもしれませんが、全く人を恐れません。

カモシカくんです 

体格がいいですね

かわいいです

日本カモシカの動画

カモシカくんの足跡

 カモシカだけではなく、野生動物も我々人間と同じように歩きやすいところを歩きます。ただ、野生動物の場合、木に体をこすりつけるぐらいに木の近くを縫うようにして歩くのが特徴のような気がしています。

  

野生動物観察棟

 野生動物観察棟も解放されたいました。避難小屋としても利用できるようです。

 ふもとでのテント泊も考えましたが、完全に下山するとどうしても風呂に入って、布団に寝たい気持ちになります。
観光案内所で駒ヶ根YHを案内していただきました。夕食がないということなので、観光案内所で荷物を預かって頂き、『こまくさの湯』で温泉には入らず食事だけ頂きました。
本当は、温泉にも入りたかったのですが、着替えがありませんでした。

 食後、休憩室で小学生向けの漫画の天気解説を読みふけっていました。この本は、とても分かりやすくぜひ購入しようと思っています。
人に教えるためには、とても参考になりそうです。

 駒ヶ根YHに行くと、明日から同じ第22回全国雪崩講習会に参加する方2名と合部屋になりました。神戸と名古屋からで、お二人とも初級の受講で、今年から3年間で中級、上級を受講していくということです。私は、とりあえずレスキュー優先で考えましたので、レスキュー専科の受講を希望しました。



 

講習会横断幕

第22回全国雪崩講習会  日本勤労者山岳連盟 JWAF

 平成20年2月9日(土)〜11日(月)の2泊3日の日程で、中央アルプス(千畳敷カール)で開催された日本勤労者山岳連盟 JWAF第22回全国雪崩講習会のレスキュー専科に参加してきました。

 これまで何人の方が、雪崩で犠牲になったのでしょうか?
雪山をはじめて12年、これまで何冊かの本を読んだことはありますが、講習会に参加したのは、今年1月に受講したガイド養成講座の雪崩講習だけです。
本当に遅すぎた機会であったのかもしれません。今後も冬山を継続していくためには、必ず必要な知識と経験です。

 雪崩れについて話をした時に、安易に聞き流す方は、何が危険なのかまだ十分に理解していないのだと思います。現実に、今までの私がそうでしたから。
雪崩だけではなく、そして登山だけではなく、本当に危険なのは『何が危険なのか分かっていない状況』だと思います。
そして、そのような状況の登山者が大勢いるからこそ、いわゆる三種の道具(ビーコン・ゾンデ・シャベル)の携行率が低いのだと思います。
三種の道具を携行していた登山者は、正月の千畳敷カールへの入山者の内、1割に満たなかったということです。

 ところで、事務局に事前に登山届を提出していたので、講師の方々は私の登山をかなり心配されていたようです。
今年は、南岸低気圧が多かったことから、特に富士山や中央アルスプスは、例年ない積雪量だったようです。
実際に現地に入ってから、計画は無理で初日から既に撤退を決定していたので、事前に事務局に連絡を入れておくべきだったと反省しました。

駒ヶ根高原からの千畳敷カール

千畳敷カールからの宝剣岳

 例年にない積雪量の千畳敷カール。この例年にないという感覚は、中央アルプスがはじめての私にはありませんが、八ケ岳の積雪を考慮するとうなずけます。

宝剣岳

スノーマウント

 「スノーマウント」いわゆる「かまくら」をはじめて作りました。
「スノーマウント」は、雪の量が少なく雪洞を掘れなかったり、風が強くツェルトを張れなかった時に緊急用に作るシェルターです。

作り方
・メンバーのザックの上にツェルト等のシートを被せ、その上からシャベルで雪を山状に盛っていきます。
・サイドから竪穴(スノーソウが有効)を掘っていき、ザックを引き抜いた上で、シートを除き、内部を削っていきます。

スノーマウント

 雪洞同様に綺麗に整備すれば、かなり快適です。

 スノーマウント

 この「スノーマウント」は、入口を雪のブロックで塞ぎました。3月に長野県連の雪崩レスキュー講習時に使用されます。

千畳敷カールからのパノラマ(写真をクリックすると拡大します。)

レスキュー専科を受講しての感想

 雪山経験12年にして、今年はじめて雪崩講習を受講しました。
 一つは、1月に湯檜曽で開催されたNIJAのガイド養成講座の『雪崩対策技術』です。そして、今回のレスキュー専科です。

レスキュー専科の講習内容

日程 講習 内容
初日 午前 ビーコン操作 基本的なビーコン操作の習得
埋没体験 主任講師が遭難者役で、ゾンデの感触及びコールの聞き取り確認
スカッフとコール
午後 ゾンデ棒捜索(2点ゾンデ法) 基本的な2点ゾンデ法を体験。主任講師が遭難者役で、ゾンデの感触
2日目 午前 シート搬送 室内でまずシートコンポを確認
セルフレスキューシュミレーション ビーコン操作の習得
午後 スノーマウント作成 緊急用のシェルター構築
プルアップ及びプルダウン 5分の1による引き上げ、自動制動にルベルソ使用
夜間 低体温症の事例紹介(机上) 過去の事故事例から救急法を確認
3日目 午前 セルフレスキューシュミレーション 講習の仕上げとしてのセルフレスキューシュミレーション
シート搬送 主任講師が遭難者役で右足骨折、安全地帯までヒューマンチェーンで搬出
救命措置 負傷箇所の固定及びシートコンポと保温。組織レスキューへ。

  今回、日本勤労者山岳連盟 JWAF第22回全国雪崩講習会に参加して最も感じたことは、労山の組織力でした。それから、受講者の登山に取組む真剣さと技術及び知識に対する向上心でした。本来ならば、初級・中級・上級と受講した上でのレスキュー専科の受講が望ましかったのかもしれませんが、今回は、雪崩に対する知識や経験より、雪上でのレスキュー技術の習得を優先しました。幸いなことに、レスキュー専科受講前にNIJAのガイド養成講座の『雪崩対策技術』の経験がありましたので、基本的なビーコンの操作には多少の慣れがありましたので、助かりました。『雪崩対策技術』の受講後に、自分なりに講習をまとめていないので、雪に関する知識は聞いたことがあるという程度ですが、講習内容を自分なりにまとめて知識として確立させたいと考えています。

 今回の講習期間中に、千畳敷カールで3名の方が雪崩に巻き込まれる遭難が発生しました。生存者2名のレスキュー活動が、ホテルの方と労山の講師陣で編成され実施されました。レスキュー直前にも雪崩がある中でのレスキューでした。登山の多くの遭難が、気象が原因による遭難事故です。登山者一人一人が自分なりの行動基準を適切に判断して、より安全な登山を継続できることを心より願っております。そのためには、『何が危険であるのかを』理解できるようになることが第一歩だと思っています。

 最後に遭難者のご冥福をお祈りいたします。